大阪地方裁判所堺支部 昭和56年(ワ)566号 判決 1985年3月07日
原告 岡本サカヱ
右訴訟代理人弁護士 加藤成一
被告 佐藤工務店こと佐藤昌武
<ほか一名>
右訴訟代理人弁護士 阪口繁
同 櫛田寛一
同 三山峻司
主文
一 被告佐藤昌武は原告に対し、金九〇〇万円及びこれに対する昭和五六年七月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告八木守は原告に対し、金二二〇万円及びこれに対する昭和五六年七月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告と被告佐藤昌武との間ではこれを一〇分しその一を原告の負担とし、その余を被告佐藤昌武の負担とし、原告と被告八木守との間ではこれを一〇分し、その八を原告の負担とし、その余を被告八木守の負担とする。
五 この判決の第一、二項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告に対し金一一〇〇万円及びこれに対する昭和五六年七月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告の請求の原因
1 原告は、昭和五五年一〇月二三日、被告佐藤との間で、同人所有の堺市深阪三六七番一、同番二の原野、畑(現況宅地)地積合計九〇・二八平方メートルの土地(以下本件土地という。)を、代金一〇〇〇万円、内手付金一五〇万円、本件土地の引渡期日同年一一月一五日、残金八五〇万円は右引渡と同時に支払い、残金を支払ったときに本件土地の所有権が原告に移転するとの約束で買受ける旨の契約を締結し、その締結当日手付金一五〇万円を支払った。なお、被告佐藤の自白の撤回には異議がある。
2 同年一一月一五日、原告は、司法書士である被告八木の事務所で被告佐藤に対し残金八五〇万円を支払って本件土地の所有権を取得し、被告佐藤からは本件土地の権利証、委任状、印鑑登録証明書等所有権移転登記手続をするのに必要な書類(以下、右権利証等の書類を本件書類という。)を受領してこれらを被告八木に預けた。
3 ところで、本件土地の所有権移転登記手続については、地目変更、整地、建築確認等が完了するまでこれを待つとの了解が原告と被告佐藤との間であり、被告佐藤は原告に対し、遅くも昭和五六年二月末日までには後記被告八木の答弁第5項記載の富士銀行の根抵当権設定登記を抹消して所有権移転登記手続をすると約していたのであるが、被告佐藤は、同年一二月一五日頃、原告に無断で被告八木から本件書類を受領し、これを利用して本件土地につき同月二五日関西相互銀行のため極度額五〇〇万円の根抵当権設定登記を経由し、さらに昭和五六年五月一一日谷口司郎に対し譲渡担保を原因とする所有権移転登記を経由した。
被告佐藤は同年六月中旬倒産し、無資力となった。
4 被告佐藤の責任
(一) 被告佐藤の前述の行為は横領に該当し、不法行為責任を免れない。
(二) 本件売買契約は、前述のとおり関西相互銀行及び谷口のために各登記がなされた結果、原告に対する被告佐藤の所有権移転登記義務が履行できなくなったので、同人は債務不履行の責任を負う。
5 被告八木の責任
被告八木は、前記昭和五五年一一月一五日原告から本件書類を預る際、原告から本件土地の所有権移転登記手続をするよう委任を受けたものであるが、原告のため右手続をすべきにもかかわらず、原告に無断で前述のとおり被告佐藤に本件書類を渡してその横領行為を可能にさせ、原告に後記損害を負わせた。
被告八木が原告から所有権登記手続をするよう委任を受けていなかったとしても、被告八木は原告から本件書類を預って原告のためこれを保管すべき義務があったのであるから、これを怠って原告に無断で本件書類を被告佐藤に渡した結果、被告佐藤が関西相互銀行及び谷口のため前記各登記をして原告に後記の損害を加えた以上、被告八木は不法行為責任ないし債務不履行責任を免れない。
6 原告の被った損害は、本件土地の売買代金相当額一〇〇〇万円及び本件弁護士費用一〇〇万円の合計一一〇〇万円である。
被告八木は、本件土地につきその時価をこえる富士銀行の極度額二〇〇〇万円の根抵当権設定登記がなされているというが、右根抵当権については、本件土地に隣接する堺市深阪三六六番一、三六七番九の土地もその共同担保となっており、面積比にして本件土地の負担分は八〇〇万円である。しかも、被告八木は被告佐藤とともに、原告が大阪弁護士会を通じて富士銀行に対し被担保債権の残存額を照会した際、その回答を拒んで原告の証明を妨害しているので、制裁的に残存額は零とするべきである。
7 よって、不法行為又は債務不履行による損害賠償として、被告らに対し、各自一一〇〇万円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五六年七月一二日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する被告佐藤の答弁
1 請求の原因第1項の事実は第三回口頭弁論期日において認めたが、右自白を撤回する。昭和五五年一〇月二三日の原告と被告佐藤の契約は、被告佐藤が本件土地上に分譲住宅を建築し他に一括売却して利益をあげようと原告から出資を受けることをその内容とするものである。
2 同第2項の事実について、同年一一月一五日残金八五〇万円を原告から受領したことは認めるが、受領した場所は被告佐藤の自宅である。また、本件書類は被告佐藤が直接被告八木に交付した。
3 同第3項の事実中、被告佐藤が被告八木から本件書類を受領して原告に無断で原告主張の各登記をしたこと、被告佐藤が昭和五六年六月中旬倒産し、無資力となったことは認めるが、その余は否認する。
4 同第4項、第6項はいずれも争う。
三 請求の原因に対する被告八木の答弁
1 請求の原因第1項の事実は不知。
2 同第2項の事実について、昭和五五年一一月一五日司法書士である被告八木が本件書類を預ったことはあるが、預り先は被告佐藤であり、被告佐藤の申出により本件書類の預り証を原告宛にしたにすぎない。その余の事実は否認する。
3 同第3項の事実について、被告八木が被告佐藤に本件書類を返還したこと、被告佐藤が昭和五六年六月中旬倒産して無資力となったことは認めるが、その余は不知。
4 同第5項の事実は否認する。被告八木は原告から本件土地の所有権移転登記手続をするよう委任を受けたことはない。被告八木は、原告と被告佐藤との間に金銭の授受があったことを知らなかったし、原告は、本件書類の返還の結果関西相互銀行や谷口のための各登記がなされたと主張するが、一般的には権利証に代る保証書によっても右各登記は可能であるから、その間に因果関係はない。
5 同第6項は争う。当時、本件土地にはその時価をこえる富士銀行の極度額二〇〇〇万円の根抵当権設定登記がなされており、被告佐藤はこれを抹消しなかったのであるから、原告の損害と被告八木の本件書類の返還との間には相当因果関係がない。
五 被告佐藤の抗弁
昭和五六年六月五日、被告佐藤は原告に対し、原告が支払った一〇〇〇万円の金利として一〇〇万円を支払い、同月一五日、原告は被告佐藤に対し、右一〇〇〇万円の返済を一年間猶予した。
六 被告八木の抗弁
昭和五六年六月五日、被告佐藤は原告に対する金利として一〇〇万円を支払った。
七 抗弁に対する原告の答弁
昭和五六年六月五日、原告が被告佐藤から損害賠償金の一部として一〇〇万円を受領したことは認める。被告佐藤主張の返済の猶予については争う。
第三証拠関係《省略》
理由
第一被告佐藤に対する請求について
一 請求の原因第1項の事実について、被告佐藤は一旦これを自白しながら右自白を撤回して当該事実を争うけれども、右自白が真実に反する旨の同被告の主張に副う《証拠省略》は、《証拠省略》にてらして採用できず、他に被告佐藤の右主張を認めるべき証拠はないから、その自白の撤回は許されない。
二 請求の原因第2項、第3項の事実中、昭和五五年一一月一五日に被告佐藤がその授受の場所がどこかは別として原告から残代金八五〇万円を受領したこと、その後、被告佐藤が原告に無断で本件土地につき関西相互銀行のための極度額五〇〇万円の根抵当権設定登記及び谷口に対する所有権移転登記をそれぞれ経由したことは関係当事者間に争いがない。
そして、《証拠省略》によれば、昭和五五年一一月当時、本件土地は、被告佐藤においてこれを造成して宅地化してはいたものの、一部凹凸が残り、擁壁工事のうち土留めがされていなかったこと、また、後にも認定するとおり、本件土地については他の合計一三二・二九平方メートルの土地と共に富士銀行のため極度額を二〇〇〇万円とする根抵当権が設定され、その旨の登記が経由されていて、被告佐藤は富士銀行からほゞ右極度額一杯の債務を負担していたこと、被告佐藤は原告に対し、整地や擁壁工事を完全に行ったうえ、右根抵当権設定登記を抹消し、地目変更等の手続もして、本件土地の所有権移転登記手続をすることを約していたこと、以上の事実を認めることができる。
そうすると、請求の原因第2項、第3項のその余の争点について判断するまでもなく、被告佐藤が関西相互銀行のため本件土地に根抵当権を設定した行為は横領に該当し、同被告は不法行為に基づく損害賠償責任を免れないのみならず、その後、被告佐藤が谷口に対し所有権移転登記を経由したことにより、同被告の原告に対する本件土地の所有権移転登記をなすべき義務は履行不能となり、同被告は債務不履行に基づくてん補賠償をすべき義務も免れない。
三 そこで、原告の損害につき考えるに、不法行為に基づく原告の請求については、不法行為時である同年一二月二五日の本件土地の価額が原告の損害と考えられるところ、前認定の事実によれば、右価額はたかだか二〇〇万円をこえず、被告佐藤に負担せしめるべき弁護士費用を加えても後述する債務不履行に基づくてん補賠償の額に満たないことは明らかである。
すゝんで、債務不履行に基づく原告の請求については、前認定の事実からして、富士銀行のための根抵当権設定登記の抹消等の被告佐藤の義務が尽くされた場合の本件土地の価額が原告の損害と考えられるのであるから、その損害を一〇〇〇万円と認めるのが相当である。しかしながら、債務不履行に基づき被告佐藤の責任を問うにあたり、前認定の事実関係のもとにおいては、弁護士費用を原告の損害と解することはできない。
従って、原告の被告佐藤に対する請求は債務不履行に基づくそれを選択すべきである。
五 被告佐藤の抗弁について判断するに、抗弁事実中、昭和五六年六月五日、被告佐藤が原告に対し一〇〇万円を支払ったことは関係当事者間に争いがないところ、被告佐藤はこれを金利として支払ったと主張するけれども、前認定の事実からして右金員を利息あるいは遅延損害金として支払ったと認めるのは合理的ではなく、原告が自認するとおり、原告の損害の一部に充当されるべきものとして支払われたと解するのが相当である。
被告佐藤は、期限の猶予を得た旨主張するが、右主張に副う《証拠省略》は右主張を認めるに十分ではなく、他にこれを認めるべき証拠はない。
六 そうすると、被告佐藤は原告に対し、一〇〇〇万円から一〇〇万円を控除した九〇〇万円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五六年七月一二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
第二被告八木に対する請求について
一 請求の原因第1項の事実は、《証拠省略》によってこれを認めることができる。《証拠判断省略》
二 同第2項の事実について、原告は、昭和五五年一一月一五日、被告八木の事務所で被告佐藤に本件土地の残代金八五〇万円を支払ったと主張するが、《証拠省略》によれば、原告は昭和五五年一一月一五日、被告佐藤に本件土地の残代金八五〇万円を支払ったが、その支払った場所は被告佐藤の事務所においてであったと認めることができる。《証拠省略》は、右残代金が授受されたのは被告八木の事務所であったと供述するけれども、《証拠省略》によれば、右八五〇万円の領収証は、前記手付金一五〇万円のそれと同様、被告佐藤の事務所で佐藤千鶴子が作成していることが明らかで、八五〇万円の授受もその領収証の作成と同じ機会になされたと認めるのが合理的であり、《証拠省略》を採用することはできない。
また、《証拠省略》によれば、同日、司法書士である被告八木は、原告から本件土地に係る権利証、被告佐藤の印鑑証明書一通、同被告の委任状二通、売渡証書一通の合計五通の本件書類を預かったことを認めることができる(司法書士である被告八木が本件書類を預ったこと自体は、関係当事者間に争いがない)。《証拠判断省略》
三 請求の原因第3項及び第5項について判断する。
《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。
1 昭和五五年一一月当時、本件土地のうち堺市深阪三六七番一の土地は、登記簿上地目は田、地積は地積更正前の四九平方メートルであり、分筆前の三六九番二の土地は、同じく地目は原野、地積は一三二平方メートルで、未だ地目変更、地積更正、分筆等はなされていなかった。
同年一二月一五日、右二筆の土地の地目はいずれも雑種地に変更され、三六七番一の土地の地積は七七平方メートルに更正され、かつ、三六七番二の土地からは同番九(地積一二〇平方メートル)が分筆されて、同番二の土地の地積は一二平方メートルとなった。
これらの土地は、三六六番一の土地(地積一三平方メートル)と一団の土地をなしており、いずれも被告佐藤が造成して宅地化してはいたものの、一部凹凸が残り、本件土地については擁壁工事のうち土留めがされていなかった。
そして、被告佐藤は、右一団の土地につき同年二月富士銀行に極度額二〇〇〇万円の根抵当権を設定してその旨の登記を経由し(右根抵当権設定登記がなされていたことは関係当事者間に争いがない)、ほゞ右極度額一杯の債務を負担しており、原告と被告佐藤間の本件土地の売買契約においては、被告佐藤は原告に対し、整地や擁壁工事を完全に行ったうえ、右根抵当権設定登記を抹消し、地目変更等の手続もして本件土地の所有権移転登記をすることを約していた。
2 昭和五五年一一月一五日、原告は、前述のとおり被告佐藤の事務所で残代金八五〇万円を同被告に支払った後、石本修、被告佐藤と共に被告八木の事務所に赴いた。同事務所で、被告佐藤は、原告を被告八木に紹介したうえ、委任状一通を除く本件書類と分筆前の本件土地の登記簿及び地積測量図を示して、所有権移転登記をするための売主側の必要書類が揃っているか否かを被告八木に確かめた。被告八木は、書類を検討して、地目変更、分筆、地積更正、根抵当設定登記の抹消等が必要である旨を述べ、このまゝでは直ちに所有権移転登記ができない旨を答えたところ、被告佐藤がこれらの手続を自己の責任で行うというので、根抵当権設定登記の抹消登記手続をするための委任状一通を同被告に作成させたうえ、同被告の指示に従い、原告宛に、本件書類を登記申請必要書類として預る旨と、本書は登記済証を渡すとき引換えて下さいとの旨が記載されている預り証を作成し、被告佐藤を介して原告に交付して前述のとおり本件書類を預った。
右の際、原告から被告八木に対して原告名義の委任状や住民票等は交付されず、登記費用等の授受もされてはいない。
3 同年一二月中旬、被告佐藤は原告に無断で被告八木に対し、本件書類の返還を申入れたところ、被告八木は、預り証を原告に交付したことを失念し、かつ、被告佐藤からは昭和五二年頃以来相当件数の仕事を頼まれてこれを処理していたこともあって、求められるまゝ本件書類を同被告に返還してしまった(被告八木が本件書類を被告佐藤に返還したことは関係当事者間に争いがない)。
被告佐藤は、同月一五日、前述のとおり本件土地につき地目変更、地積更正、分筆手続等をしたうえ、本件書類のうちの権利証を利用して、同月二五日、関西相互銀行のため、本件土地を含む前記一団の土地につき極度額を五〇〇万円とする根抵当権設定登記を経由し、さらに昭和五六年五月一一日、本件土地につき谷口に対し譲渡担保を原因とする所有権移転登記を経由した。
4 被告佐藤は、同年六月頃倒産し、無資力となった(この事実は関係当事者間に争いがない)。
以上に認定した事実関係のもとにおいては、昭和五五年一一月一五日に、原告が被告八木に対し本件土地の所有権移転登記手続をするよう委任したと認めることはできないけれども、後に条件が整えば、本件土地につき売主である被告佐藤から買主である原告に所有権移転登記手続をするにあたって、その手続を被告八木に委任することを予定して、原告が被告八木に本件書類を預けたことは明らかである。
そうすると、被告八木は、司法書士として通常払うべき注意をもって本件書類を保管すべき義務があったというべきところ、被告八木は被告佐藤の求めるまゝ漫然と本件書類を同被告に返還したのであるから、被告八木には右注意義務違反に基づく責任を免れない。
そして、被告佐藤が返還を受けた本件書類のうちの権利証を利用すれば、本件土地を処分することが容易となり、そのような場合には原告が損害を被るであろうことは通常考えうるところであるから、被告八木の前記注意義務違反と原告の後記損害との間には相当因果関係を肯認することができ、同被告は原告に対し、民法七〇九条に基づきその損害を賠償すべきである。
四 被告八木の行為により原告が被った損害について判断するに、既に認定した本件土地の代金額(ただし、整地、擁壁工事が一部残されているから、その分を減ずるべきである)から前記一団の土地についての富士銀行の根抵当権の存在により、右一団の土地の面積のうち本件土地の面積の占める割合及び《証拠省略》によれば右一団の土地のうちの本件土地の街路条件とその余の土地のそれとを比較した場合後者の方が相当に優れていると認められることなどを彼此勘案して得られる右根抵当権の枠のうち本件土地の負担分と認められる額を控除すると、原告の損害が現実化した昭和五五年一二月二五日ないし昭和五六年五月一一日頃の本件土地の客観的な価額は、二〇〇万円とみつもるのが相当である。
原告は、被告八木の証明妨害を云々するけれども、《証拠省略》によれば、富士銀行が大阪弁護士会を通じての原告の照会に応じなかったのは被告八木の拒否によるものではないことが明らかであるから、原告の右主張はその前提を欠き、採用するに由ないものである。
原告の弁護士費用の主張については、本件事案の性質にかんがみ、二〇万円を被告八木に負担せしめるべきである。
なお、原告は、債務不履行に基づく請求もしているところ、右の請求が成立するにせよ、その場合の原告の損害額が不法行為によるそれをこえると解することはできないから、この点につき判断する要をみない。
五 被告八木の抗弁につき考えるに、被告佐藤が原告に対し一〇〇万円を支払ったことは関係当事者間に争いがない。しかしながら、本件においては、本件土地について富士銀行の根抵当権設定登記が存在し、これが抹消されないまゝであったため、被告佐藤の賠償すべき金額が被告八木のそれよりも多額となっているところ、被告佐藤の支払った一〇〇万円は、これが特に被告八木のためにもするものであることが示されない限り、被告佐藤と被告八木の賠償額の差額に充当されると解するのが弁済の当事者の意思にも副うものである。従って、被告八木の抗弁は、右の差額が一〇〇万円をこえる以上理由がないことに帰する。
六 以上の次第で、被告八木は原告に対し、二二〇万円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五六年七月一二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
第三結論
よって、原告の請求は、被告佐藤に対しては九〇〇万円及びこれに対する昭和五六年七月一二日から完済まで年五分の割合の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却すべきであり、被告八木に対しては二二〇万円及びこれに対する前同日から完済まで同割合の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 前川鉄郎)